東京地方裁判所 昭和37年(行)86号 判決 1967年2月22日
原告 株式会社島田製作所
被告 東京国税局長
訴訟代理人 横山茂晴 外六名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立て
一、原告
左記各処分を取り消すとの判決を求める。
(一) 松戸税務署長が原告に対し昭和三六年一〇月一七日付松間消第一八四号をもつて別表一記載のとおり物品税課税標準および税額を決定した処分。
(二) 同税務署長が(一)の処分に対する原告の再調査請求を昭和三七年一月二四日付松間消特第一号をもつて棄却した決定。
(三) 被告が(二)の棄却決定に対する原告の審査請求を昭和三七年六月九日付東局間消第一四五号東協特第三四二号をもつて棄却した決定。
二、被告
主文第一項同旨の判決を求める。
第二原告の請求原因
一、原告はゴルフクラブおよび同部分品等の製造販売を業とするものであるが、松戸税務署長は、原告が昭和三三年一〇月から昭和三五年七月までの間に別表二に掲げる数量、価格のゴルフクラブを製造移出したとして、原告に対し、昭和三六年一〇月一七日付松間消第一八四号をもつて別表一記載のとおり物品税課税標準および税額を決定し、同月一八日その旨の納税告知書を原告に送達した。これに対し、原告は同年一一月一六日同税務署長に再調査の請求をしたところ、同署長は、昭和三七年一月二四日付松間消特第一号をもつて右請求を棄却し、その頃その旨を原告に通知した。そこで、原告は同年二月二一日さらに被告に対して審査請求をしたところ、被告は、同年六月九日付東局間消第一四五号東協特第三四二号をもつて右請求を棄却し、その頃その旨を原告に通知した。
二、しかし、松戸税務署長の右課税処分には課税要件の認定を誤つた違法があり、したがつてこれを維持した同署長の再調査請求棄却決定および被告の審査請求棄却決定も違法であるから、右各処分の取消しを求める。
第三被告の答弁および主張
一、請求原因第一項の事実は認めるが、同第二項の主張は争う。
二 本件課税処分はつぎのような認定理由にもとづくものである。
原告は、昭和三三年一〇月以前から、千葉県東葛飾郡我孫子町に製造場を有する訴外小熊三五郎に対し、ゴルフクラブ(ウツド)の製造に必要なシヤフトその他の材料を供給してゴルフクラブ(ウツド)を製造させていたものであるが、その取引には、(イ)小熊が原告から材料の供給をうけ、原告の指示にもとづきそのゴルフクラブに表示すべきJETSTARという商標を付したゴルフクラブを製造して、原告に納めていたもの(「当店分」と称されていた)、(ロ)小熊が右材料により製造したゴルフクラブに自己の商標を付して原告以外の者に売り渡していたもの(「他店分」と称されていた)の二種類があり、この当店分と他店分につきさらにそれぞれ「表取引」と「裏取引」の区別があり、当店分表取引においては、小熊が原告から材料を一本分八〇〇円くらいで買い入れ、これを使用して製造した原告の商標付きのゴルフクラブを一本あたり二、二〇〇円で原告が買い取つていたのに対し、当店分裏取引においては、材料(ヘツド素材を除く)を原告が小熊に無償で支給し、原告の商標を付して製造されたゴルフクラブを一本あたり六〇〇円の加工賃を支払つて原告が引き取るという方法をとつていたが、昭和三五年五月頃からは、右裏取引についても、材料支給の方法をとらないで、材料を小熊に買い取らせ、前同様原告の商標を付して製造したゴルフクラブを一本あたり一、六〇〇円ないし一、七〇〇円で原告が買い取るという方式に改めた。そして、この表取引と裏取引とはシヤフトを小熊に引き渡すときから区別され、前者の分のシヤフトの束には青字で数量を表示した荷札をつけ、後者の分には同様の荷札に赤字で数量を表示する取扱いとなつていた。
ところで、昭和三四年法律第一五〇号による改正前の物品税法第六条第四項は、第二種物品の販売業者が原料を供給して右物品の製造を委託する場合には、その販売業者を受託者の製造した物品の製造者とみなす旨定めていたが、上記改正により、右第四項は第三項となり、規定の内容も、第二種物品の販売業者が原料を供給して右物品の製造を委託し、または自己のみの商標を表示すべきことを指示して右物品を製造させる場合には、その販売業者を受託者または商標指示をうけた者の製造した物品の製造者とみなすというように改められた。この改正規定は、本来ならば、右改正法施行の日である昭和三四年五月一日から適用されるはずであつたが、同改正法附則第一〇項および同法律施行に伴なう通達によつて、商標指示により第二種物品の製造とみなされる行為をする者は同法律施行の日から一箇月以内にその製造とみなされる行為の内容等について所轄税務署長に申告すべきものとされ、同署長は、右申告にもとづき事実を調査確認し、同年一二月中に改正法第六条第三項に該当する旨の判定通知を発したうえで、翌三五年二月一日から改正規定を適用することとなつた。
その結果、原告は、昭和三四年五月松戸税務署長に対し、商標指示による看做製造行為の申告をしたので、同署長は、これにもとづき調査、判定の手続をおこない、昭和三五年二月一日以降につき右改正規定を適用して、原告を商標指示による看做製造者にあたるものと認定したが、前記のような当店分裏取引については、法改正の前後を通じ、原告が原料供給による看做製造者に該当することが明らかであるので、昭和三七年法律第四八号による改正前の物品税法第八条第三項の規定に従い、昭和三三年一〇月から昭和三五年七月までの間に裏取引として小熊の製造場から原告の新宿営業所に移出されたゴルフクラブ(ウツド)の数量、課税標準算定の基礎となる移出時の単価をそれぞれ別表二のとおり認定して、課税標準および税額を別表一のとおり決定したのである。
なお、右移出時の単価は、当該移出時において原告が同種のゴルフクラブをその製造販売業者として卸売りに出す場合の価格(同種のゴルフクラブが原告の新宿営業所から卸売りに出される前月の最多取引価格)によつたものであり、この卸売価格に物品税相当額が含まれているかどうか明らかでないので、右物品税相当額を控除したものをもつて課税標準とした。
本件課税処分は以上の認定理由にもとづくものであつて、なんら違法の点はなく、したがつてこれに対する再調査請求および審査請求を棄却した各処分も正当である。
第四被告の主張に対する原告の答弁および反論(違法事由の主張)
一、物品税法改正の経過が被告主張のとおりであること、改正法附則第一〇条および同改正法施行に伴なう通達によつて、商標指示者につき申告にもとづく調査、判定の手続がおこなわれ(原告についても同じ)、商標指示規定を事実上昭和三五年二月一日から適用する取扱いとなつたこと、小熊の製造場が我孫子町に存在すること、原告の製造販売するゴルフクラブの商標がJETSTARであること、別表二に掲げる数量のゴルフクラブ(ウツド)が小熊の製造場から原告の新宿営業所に移出され、これにつき原告が被告主張の法改正の前後を通じて原料供給による看做製造者に該当すると認定されたこと、原告が昭和三五年二月一日以降の小熊との取引につき商標指示による看做製造者に該当すると認定されたこと、以上の点は認めるが、その余の事実は争う。
二、松戸税務署長の認定理由には、つぎのような違法のかどがある。
(一) 原告と小熊との取引関係は、終始、ゴルフクラブのシヤフトのメーカーである原告がシヤフトを小熊に売り渡し、小熊がこれを使用して製造したゴルフクラブ(ウツド)の一部(原告の指示にもとづきその商標を付したもの)を、小熊の得意先の一人である原告において買い取つていた関係にすぎない。したがつて、原告は、昭和三五年二月一日以降の取引(別表二の15以下)につき商標指示による看做製造者と認定されることには異議がないが、原料供給による看做製造者に該当するとの認定は事実を誤認するものである。
(1) 被告は、原告と小熊との取引関係に「表」と「裏」があり、別素二掲記のものは当店分裏取引にあたるものであると主張するが、「表」と「裏」とは課税申告をしたかどうかという事後的な区別であつて、取引発生のときから区別されていたものでもなければ、製造工程においてちがいがあつたものでもなく、また当店分裏取引のゴルフクラブが一本あたり何程という加工賃計算のようにして引き取られていたとしても、裏取引は物品税抜きの取引であるから詳細な材料代などを記帳計算する必要がなく、そのために計算が単純化して一本分何程という加工賃計算がとられたのにすぎず、一本分何程かの加工賃が計算上取引代金に含まれていることは当店分表取引においてもかわりがないのである。このように原告と小熊との取引関係は当店分の表と裏とで本質的な差異はなかつたのであるから、裏取引についてのみ原告が原料供給の点で看做製造者にあたるという被告の主張はまつたく根拠がない。
(2) 原告が原料供給の点で看做製造者にあたらないことは、松戸税務署長においても認めていたところである。すなわち、原告は、小熊との取引関係が原料供給による委託製造にあたるかどうかにつき疑いがあつたので、昭和三三年五月二六日小熊方を製造場、小熊を受託者、製造物品を第二種甲第一類ゴルフ用具、製造開始日を昭和三三年五月二七日とする「物品税第二種物品小売業または製造開始申告書」を松戸税務署長に提出したところ、同署長は、これにもとづき小熊方におけるゴルフクラブの製造の実態を調査したうえ、小熊方でのゴルフクラブの製造については、小熊が製造者として物品税を納付すべきものと認め、そのように手続を指導し、原告が原料供給による看做製造者として物品税を納付することを拒んだ。その結果、昭和三五年一月三一日以前の小熊方でのゴルフクラブの製造移出のすべてについては、小熊自身が、松戸税務署長に対し、物品税法所定の手続をするとともに物品税を納付していたのであり、その間、同署長は原告が物品税法上の諸手続および納税をしないことについて処分したことはまつたくない。その後、前記商標指示規定が創設された際、原告は、松戸税務署長に対し、改正法附則第一〇項にもとづき昭和三四年五月三〇日「商標指示に関する届書」(乙第四号証)を提出し、翌六月一五日商標を指示してゴルフクラブを製造させている旨の製造開始申告書(乙第五号証)を提出したところ、同署長は、これにもとづき調査の結果、原告が改正規定にいう商標指示の点で看做製造者に該当するものと認定し、昭和三四年一二月二四日付松間消特第一九〇号「納税義務者判定通知書」(甲第四号証)を原告に送達した。右判定通知は、商標指示規定の創設前においては原告が原料供給の点で看做製造者にあたらないとする従前の認定を前提として、右商標指示規定の創設により、初めて原告が商標指示の点で看做製造者に該当するにいたつたことを認定したものにほかならない。以上の経過に徴しても、原告を原料供給による看做製造者と認定する余地のないことは明らかである。
(二) そればかりでなく、「原料の供給とは、製造を委託した第二種……の物品の製造の用に供する原料または材料の全部または当該物品の数量に見合う主要原材料または主要部品を提供すること」を意味するものである(旧物品税法基本通達昭和三四年七月一日間消四―一八徴管二―一二三第三九条第二項第一。)したがつて、
(1) 原料の供給というためには、主要原材料の供給がなければならないから、ゴルフクラブについていえば、主要原材料として少なくともシヤフトおよびヘツドの両者を供給することが必要であるところ、原告はたんにシヤフトのみを小熊に販売していたにすぎないから、物品税法にいう原料を供給して製造を委託した場合にはあたらない。
(2) 原料供給による看做製造者の関係が成立するためには、製造を委託した物品の処分権が販売業者にあることはもとより、その物品の規格、意匠等についてもすべて販売業者の指図により決定されることを必要とし、販売業者が製造を委託した物品の数量とそのために供給した原材料の数量とが「見合う」関係、すなわち製造過程中の合理的範囲内での減損耗および継続的製造の場合に原料供給と製造完成の時期的ずれによつて合理的に生ずる差異を除けば、両者の数量が一致する関係になければならない。けだし、原料供給による看做製造の規定は、いわゆる問屋生産方式がとられている場合、すなわち、受託者は事実上の製造者であるが、委託者である販売業者から原料の供給をうけ、加工賃だけを得て製造し、その製品の処分権はもちろん、規格、意匠等についてもすべて販売業者の指示によつて決定されているような場合を予想するものであつて、かような場合は、物品の製造および販売が販売業者(問屋)を中心としておこなわれており、受託者は一応独立した営業者であるとしても、物品税の徴税技術上からみた場合には、受託者を納税義務者としたのでは徴税の万全を期することができないことも予想されるので、委託者である販売業者を納税義務者としたものである。この立法理由にかんがみれば、原料供給による製造委託の関係にあるかどうかは、個々の取引についてこれを考察すべきものではなく、販売業者と製造者との取引関係を一体として考察し、右述のような意味で販売業者中心の製造販売がおこなわれているかどうかにより決定すべきであり、販売業者の提供する原料の数量と製造者が販売業者に納める製品の数量とがさきに述べた見合う関係にある場合でなければ、右の販売業者中心の製造販売がおこなわれているとはいいがたい。ところが、本件においては、原告が製造を委託したゴルフクラブの規格、意匠等は原告が指示して決定するものではなく、製造者である小熊の技術を全面的に信頼して小熊にまかせたものであるし、製品の処分についても、小熊が独自の販路を開拓してゴルフクラブの製造販売業者として独立しうるまでの間、同人の製品を原告のシヤフト販売網にのせて販売を援助するために、原告が引き取り販売したものであつて、事実、小熊の製品販売量は、原告以外の取引先に対するものが増加するにつれて原告に対するものが逐次減少し、ついに原告と小熊とのゴルフクラブの売買は皆無になつたのである。のみならず、原告が小熊にゴルフクラブの製造を委託したにつき提供したとされるシヤフトの数量は、被告のいう当店分の表と裏を合わせ、昭和三三年六月から昭和三四年一二月までの間に合計二、八三〇本であるのに対し、同じ期間内に小熊が原告に納めたゴルフクラブの数量は、表、裏合計二、三四五本であり、両者の間に四八五本の差異がある。この差異は、提供したシヤフト数の約一七パーセントにあたり、とうてい製造過程中の合理的減損耗ないし原料供給と製造完成の時期的ずれによる差異をもつては説明しえないものであつて、原告が小熊に提供したシヤフトの数量と小熊が原告に納めたゴルフクラブの数量との間に「見合う」関係がないことは明らかである。右いずれの点からみても原告と小熊との関係が問屋生産方式にあたるとはいえず、したがつて原告が原料供給の点において看做製造者に該当するものということはできない。
(三) 以上の主張が理由がないとしても、前記(一)の(2)で述べたように、松戸税務署長は、小熊方でのゴルフクラブの製造の実態を調査したうえ、同人方でのゴルフクラブの製造についてはすべて同人が製造者として物品税納付義務を負うものと認定し、原告が原料供給による看做製造者として物品税を納付することを拒んでいたのであるから、後にいたつてこの認定をひるがえすことは信義則に反するものとして許されないところであり、この点からも、原告を原料供給による看做製造者と認定したことは違法である。
(四) 本件課税処分は課税標準の算定についても違法がある。すなわち、本件の課税標準の算定にあつては、ゴルフクラブが小熊の製造場から原告の新宿営業所に移出された際の現実の価格(並製一本一、六〇〇円、デラツクス製一本一、七〇〇円)を基礎とし、これから物品税相当額を控除した額によるべきであつて、被告主張のように移出時において原告が同種のゴルフクラブをその新宿営業所から卸売りに出す場合の価格を基礎とすることは誤りである。
第五原告の主張に対する被告の認否および反対主張
一、違法事由(一)の(1)について。
当店分表取引と裏取引とがたんに課税申告をしたかどうかの事後的な区別にとどまらず、取引態様自体において本質的な差異のあつたことはさきに述べたとおりであり、このような取引態様の区別がある以上、それぞれの実態に合致した法令の適用をうけることは当然である。
(一)の(2)について。
松戸税務署長が小熊を物品税納税義務者と認定して納税手続を指導したこと、原告から同署長に対し、「商標指示に関する届書」(乙第四号証)および商標指示による製造開始申告書(乙第五号証)がそれぞれ原告主張の日に提出され、同署長が「納税義務者判定通知書」(甲第四号証)を原告に送付したことは認めるが、その余の事実は争う。松戸税務署長が小熊を納税義務者と認定したのは当店分表取引についてであつて、その経緯はつぎのとおりである。
すなわち、小熊は、我孫子町の自宅でゴルフクラブの製造を開始するにあたり、一見原告が看做製造者で小熊が受託者であるかのように記載した製造開始申告書を持参して松戸税務署に出頭し、物品税納税の手続等につき質疑したが、その際、小熊の説明をきいた係官は、(イ)小熊は材料を原告から仕入れるが、製造されたゴルフクラブは小熊の自由にいずれにでも販売することができるものであり、当初主に原告に販売するのは他に販売先がないからで、得意先ができしだい他にも販売するものであること、(ロ)小熊がゴルフクラブを製造するのは原告から委託があつてするのではなく、自己の営業として製造するものであり、委託の事実を証明する契約書等の証拠書類もなく、かつ取引の形態も材料の買取りで、しかも他に販売するのと同様の価格で原告に販売すること、(ハ)小熊が自己が製造業者である旨をくりかえし強調すること、などの諸点から、原告を看做製造者とは認めがたいとの認定に達し、小熊の持参した製造開始申告書を、小熊が製造者としてみずから申告するよう訂正させて、所定の納税手続を説明し指導したのであるが、その後小熊に対する物品税法違反の反則事件の調査をきつかけとして、右認定の基礎となつた事実関係とは異なる取引態様をとる当店分裏取引の存在が判明するにいたつたので、右裏取引につき原告を看做製造者に該当すると認定し物品税を賦課することとしたものである。
二、違法事由(二)の(1)について。
原告主張の通達にいう「主要原材料」の供給とは、シヤフトとヘツド(未完成のヘツド素材を含む。)のいずれか一つを供給すれば足りる。けだし、原料とは「物品を製造するに必要な物で、これに混合、結合もしくは組合せ等による物理的な操作または化学的変化を与え、新たな物品を作り出した場合に当該物品の性状、機能または用途等からみて、その物品の特性を与える一以上のもの」を指すから、当該物品についての原料は一つに限られるわけではなく、ゴルフクラブについていえば、その特性を決定づけるものは、シヤフトとヘツド部分であることは明らかであるから、そのいずれか一方のみを供給しても主要原料を供給する場合にあたる。
(二)の(2)について。
原料供給による看做製造者の規定がいわゆる問屋生産方式を予想するものであることは争わないが、問屋生産方式をとつているかどうかは販売業者と製造者との取引関係を一体として企業の全体につき考察すべきものとする点、したがつて通達にいう「見合う」ということの意義を原告主張のように解すべきことは争う。原料供給による看做製造業者に該当するというためには、原料を供給することおよび物品の製造を委託することの二つの要件が充足されれば足り、あらかじめ製造を委託した数量と現実に原料を供給した数量とが一致する場合はもとよりであるが、一致しない場合でも、両者の条件をみたす共通数量については、その限度において見合う関係が存在するものであつて、極端な場合についていえば、見本製造として一本分の原料を供給して一本のゴルフクラブを製作させた場合も、一本分につき看做製造者に該当する。
三、違法事由(三)について。
小熊を納税義務者と判定したのは表取引についてであつて、その後の調査の結果表取引と態様を異にする裏取引が隠ぺいされていたことが判明した以上、この事実にもとづきあらたに原告を看做製造者として課税することは当然であり、なんら信義則に反するものではない。
第六証拠<省略>
理由
一、松戸税務署長が、ゴルフクラブおよび同部分品の製造販売業者である原告に対し、原告主張のとおりの物品税賦課処分をし、これに対する原告の再調査請求を棄却したこと、そこで、原告はさらに被告に審査の請求をしたが、被告がこれを棄却したこと、原告の製造販売するゴルフクラブ(ウツド)の商標がJETSTARであること、千葉県東葛飾郡我孫子町に製造場を有するゴルフクラブの製造業者小熊三五郎が、昭和三三年一〇月から昭和三五年七月までの間に、原告の指示にもとづき右商標を付して製造した別表二に掲げる数量のゴルフクラブ(ウツド)をその製造場から原告の新宿営業所に移出したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二、原告は、松戸税務署長が、右移出にかかるゴルフクラブのうち、別表二の1ないし14については昭和三四年法律第一五〇号による改正前の物品税法第六条第四項により、同15以下については右改正後の同法第六条第三項により、いずれも原告を原料供給による看做製造者にあたると認定したことが誤りであると主張するので、以下この点について判断する。
(一) 物品税法(昭和三七年法律第四八号による改正前のもの。以下「旧物品税法」という。)が、第二種物品税の納税義務者として、第四条にいう製造者のほかに、第六条において原料等の供給による看做製造者に関する規定を設けた趣旨は、第二種物品の販売業者が原料等を供給して第二種物品の製造を委託する場合には、当該委託を受けた者は、販売業者から供給された原料等を使用し委託の趣旨に従つて製造した物品を当該販売業者に納入するにすぎず、当該販売業者が原料等の供給と製造委託という事実を通じて受託者のする当該物品の製造自体をいわば支配していると認められるうえ、受託者に零細な下請業者が多いことをも考慮して、徴税の万全を期するために、劃一的に委託者である販売業者を当該物品の製造者と看做してその納税義務者としたものと解される。このような規定の趣旨と、物品税法が現に販売もしくは製造された個々の物品ごとに課税原因の存否を決定する建前であることを考え合わせると、販売業者と事実上の製造者との間に原料供給による看做製造の関係があるかどうかは、両者の間の契約の名目いかんにかかわりなく、製造者から販売業者に移出された当の物品について個別的にこれを決定すべきであるとともに、それが当該販売業者の供給した原料によりその委託にもとづいて製造されたものであるかぎり、その物品について右の看做製造の関係が成立するものと解すべきであつて、製造移出された物品が一箇であつてもかわりはないといわなければならない。そして、右にいわゆる原料の供給とは、当該物品の製造に必要なもので、その物品の性状、機能、用途等からみてこれに重要な特性を与えるものを提供することをいい、有償、無償を問わないが、一の物品について右の意味の原料が数種あるときは、必らずしもその全部を供給する必要はなく、一種以上のものを供給すれば足りると解するのが相当である。けだし、一種にせよ、当該原料の発揮する重要な特性が当該物品に与えられる以上、その原料を通じて当該製造自体に対する販売業者の支配ありといいうるからである。
以上の点につき、原告は、原料等の供給による看做製造の関係が成立するためには、当該販売業者と製造者の個々の取引についてではなく、全取引関係を一体として観察して、両者の間に問屋と生産者のような販売業者中心の関係が認められる場合でなければならないと主張する。たしかに、原料等の供給による看做製造の規定がいわゆる問屋生産方式がとられている場合を予想して設けられたものであることは否定することができない。しかし、前記旧物品税法第六条が、右の看做製造の要件として、法文上、販売業者からの原料等の供給と製造の委託という事実だけを規定したのは、さきにもふれたとおり、徴税の技術的、合目的的な要請から、問屋生産方式がとられている場合においてもつとも特徴的、基本的な要素と考えられる右の二つの事実をとらえ、これを標識として課税手続の劃一的処理を期したものであつて、その合理性は十分是認することができる。したがつて、製造者から販売業者に移出された当該物品について右の要件がそなわるほか、さらに両者の間に原告の主張するようないわば企業としての従属関係までも存在するのでなければ看做製造の関係が成立しないとすることはひつきよう立法の動機をそのまま解釈論に持ちこむものであり採用しがたいといわなければならない。
また、原告は、その引用する旧物品税法基本通達に、「原料の供給とは、製造を委託した物品の数量に見合う主要原材料を提供すること」とあるのをひいて、販売業者の供給した原料の数量と製造者から移出された製品の数量とが原則として一致しなければ販売業者中心の関係があるとはいえないとも主張するが、看做製造についていわれる販売業者中心の関係があるかどうかは、当該販売業者と製造者の全取引関係を一体としてではなく、製造移出された個々の物品について原料の供給と製造の委託という事実により個別的に決定すべきであることは上来述べたとおりであるから、販売業者が製造を委託して供給した原料の数量と、委託を受けた製造者が当該販売業者に移出した製品の数量とが一致しない場合でも、その一致する数量の限度において看做製造の関係が成立することをなんら妨げるものではない。
(二) そこで、右の見地から本件における原告と小熊三五郎の取引をみるのに、原告が別表二の各取引当時第二種物品であるゴルフクラブの販売を業としていたことは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない甲第七、八号証、乙第一、二号証、第一三号証、第一五ないし第一七号証、第一八号証の一と証人川島貢、同小熊三五郎、同島田三郎の各証言を綜合すると、つぎの事実を認めることができる。
原告は、昭和三三年二月から同年四月までゴルフクラブの製造にすぐれた技術をもつ小熊三五郎を雇い入れてクラブを製造させていたところ、同年四月下旬小熊が退職し独立してゴルフクラブ製造業を営むことになつたので、以後原告のためにゴルフクラブ(ウツド)を製造することを小熊に依頼し、つぎのような取り決め、すなわち、(イ)原告は小熊がゴルフクラブ(ウツド)を製造するのに必要なシヤフド、ヘツド素材、グリツプ等の材料をすべて小熊に供給し、小熊はこれを使用して製造したゴルフクラブに原告の前記商標を付して原告に納入する(同人らはこれを「当店分」と称していた)が、一部の製品については小熊が自己の商標を付して自由に他に販売する(これを「他店分」と称していた)、(ロ)そして、この当店分、他店分のそれぞれのうち、正規に物品税を納付するもの(表取引)と、取引事実を隠ぺいして物品税の課税申告をしないもの(裏取引)とを半分宛とし、当店分表取引とするものについては、シヤフト等の材料を一本分八〇〇円くらいで原告が小熊に売り渡し、それによつて製造されたゴルフクラブを一本あたり二、二〇〇円の物品税込価格で小熊から買い取るという方法をとり、その物品税は小熊において納付するが、当店分裏取引とするものについては、材料を原告が無償で小熊に支給し、小熊の製造したゴルフクラブを一本あたり六〇〇円の加工賃で引き取ることとする。かような取り決めをしたうえ、これに従つて同年六月から小熊に材料を供給し、ゴルフクラブの製造をおこなわせた。そして、この取引にあたつては、原告、小熊ともに裏取引分を正規の帳簿類に記帳せず、簡単な記号によるメモ程度のものをつくるだけにしていたが、取引当事者間においては、常に半数のものが裏取引の分であることを明らかにしておくため、原告が表取引分の材料として原材料移出免税の承認(旧物品税法第一二条によるもの)を得た枠内のシヤフトを小熊に引き渡す際、必らず同時に、右承認外のシヤフトを同数だけ裏取引分の材料として引き渡し、しかも前者には納品書と青インクで数量を表示した荷札をつけるのに対し、後者には赤インクで数量を表示した荷札のみをつけて区別を明らかにするという取扱いをし、これに応じて、小熊が右材料により製造して原告に納入したゴルフクラブについても、常に表、裏同数として前記の計算による取引をおこなつていた(ただし、昭和三三年暮頃からは、ヘツド素材だけは小熊が山梨県のヘツド製作所から直接仕入れ、そのうちの裏取引分に使用されるものについては後日一箇あたり一九〇円の割合で原告から小熊に代金が支払われた。)ところが、昭和三四年法律第一五〇号による物品税法の一部改正により新設された同法第六条第三項のいわゆる商標指示規定が昭和三五年二月から適用されることとなつたので、その頃からは、当店分裏取引についても材料の無償支給による方法をやめ、材料を小熊に買い取らせ、原告の商標を付して製造させたゴルフクラブを物品税抜きの価格である一本あたり一、六〇〇円(並製のもの)ないし一、七〇〇円(デラツクス製のもの)の代価で原告が買い取るという方式に改めた。この間、小熊は、広告以外のゴルフクラブの販売業者とも取引をしていたが、営業開始後日が浅く得意先が少かつたうえ、小規模な家内工業による生産であつたというようなことから、ゴルフクラブ(ウツド)の製造に関してはほとんど原告の下請的な立場にあり、その製品の大部分は原告が材料を供給して製造させたものであつた。そして、本件課税の対象となつた別表二の移出分のうち、1ないし14は原告が小熊に材料を無償支給して製造させたゴルフクラブを前記の加工賃で引き取つたものであり、同15以下は、右の無償支給に代えて小熊に買い取らせた材料により製造させたゴルフクラブを原告が前記の物品税抜きの価格で買い取つたものであつて、いずれも当店分裏取引として移出されたものである。以上のとおり認められ、証人島田三郎の証言中右認定に反する部分は、その他の前掲証拠と対照して信用することができない。
右の認定事実によれば、少くとも原告と小熊との当店分裏取引は、原告の主張するように、たんに小熊が原告からシヤフト等を買い取り、それによつて製造したゴルフクラブを原告が小熊の得意先の一人として買い取つたという関係にすぎないものではなく、当初から原告のためにゴルフクラブを製造すべきことを原告が小熊に依頼してシヤフト等(昭和三三年暮以降はヘツド素材を除く)を小熊に供給し、原告の商標を付して製造させたゴルフクラブを原告に納入させたものであることが明らかであり、シヤフトがヘツド部分と並んでゴルフクラブの重要な特性を決定する主要材料であることは証人大塚徳次の証言からも認められるところである。してみると、前記(一)の説示に照らし、右裏取引として移出されたゴルフクラブについては、その販売業者である原告が小熊に原料を供給してその製造を委託したものであるというべきであり、原告の供給したシヤフトの数量と納入された製品の数量との間に約一七パーセントの差異があつたとしても、そのことはなんら右の判断を妨げるものではない。結局、別表二のとおり移出された各ゴルフクラブにつき、原告は旧物品税法第六条所定の原料供給による看做製造者に該当するといわなければならない。
三、つぎに、原告は、原告が原料供給による看做製造者にあたるとしても、松戸税務署長がそのように認定したことは信義則に反すると主張する。
いずれも成立に争いのない甲第四、五号証、乙第四、五号証、第七号証、方式および趣旨により公文書と認められるから真正に成立したと推定すべき乙第八号証の一、二、証人今泉康助、同川島貢、同小熊三五郎の各証言により真正に成立した原本の存在を認める乙第一八号証の二と右各証言を綜合すれば、小熊は前記のとおり我孫子町でゴルフクラブの製造を開始するにあたり、昭和三五年五月二六日原告が看做製造者で小熊が受託者であるかのように記載した旧物品税法第一五条にもとずく製造開始申告書(訂正前の乙第七号証)を持参して松戸税務署に出頭し、物品税納税手続をたずねたが、その際係官に対し、原告とは製造委託関係がなくみずからが製造者であるかのような説明をしたので、係官は小熊を製造者と一応認定して、その旨の製造開始申告書(乙第一八号証の二の原本)をあわせて提出させ、同人が納税するよう説明指導したうえ、同年七月九日小熊方に赴き製造の実態を調査したところ、表取引の事実しか判明せず、それについて原告からの製造委託の関係も認めがたかつたため、引き続き小熊を納税義務者として納税させていたこと、その間、原告方におけるゴルフクラブの製造、販売についても、時折税務署の調査がおこなわれたが、小熊との裏取引ないし製造委託の事実は発見されなかつたこと、その後昭和三四年法律第一五〇号による改正により前記商標指示規定が新設された際、原告が右改正法附則第一〇項にもとづき小熊を被指示者とする商標指示に関する届書(乙第四号証)および商標指示による製造開始申告書(乙第五号証)を松戸税務署に提出したので、同署長は、右申告にもとづき、原告が商標指示の点で看做製造者に該当することになつたものと認め、通達にしたがい昭和三四年一二月二四日付で納税義務者判定通知書(甲第四号証)を原告に送付したこと、ところがその後小熊に対する物品税法違反嫌疑事件の調査をきつかけとして、当店分裏取引の存在がはじめて発見されたので、右取引につき原告を原料供給による看做製造者と認定して本件課税をしたものであること、以上の事実が認められ、これを覆えすに足りる証拠はない(右認定事実中、松戸税務署長が小熊を物品税納税義務者と認定して納税手続を指導したこと原告から松戸税務署長に乙第四、五号証が提出され、同署長が納税義務者判定通知書を原告に送付したことは争いがない)。
右の事実によれば、松戸税務署長が小熊方から原告に移出されたゴルフクラブにつき小熊を製造者と認定して物品税を納税させたのは表取引についてだけであつて、裏取引にはなんらふれるものではなく、前記二の(二)に認定した事実をも考え合わせると、これは原告と小熊が当初から通謀して裏取引の事実を隠べいしていたため、同署長においてその事実を知りえなかつたことによるものであるから、同署長が、その後の調査によりあらたに裏取引の存在を認知したことにもとづき、右裏取引について法の定めるとおり原告を看做製造者と認定し課税したからといつて、原告がこの処置を信義に反するとして非難するのはあたらない。
四、最後に、本件課税物件の課税標準の算定に誤りがありという原告の主張について判断する。
旧物品税法第三条によれば、第二種物品税の課税標準は物品を製造場から移出するときの当該物品の価格(ただし、その物品税相当額を控除したもの)と定められているが、右の移出時の価格とは、移出の際の現実の販売価格ではなく、通常の取引形態および取引事情における価格すなわち適正な市場価格でなければならない。けだし、物品税は取引高税ではなく、いわゆる物税として一定の客観的価値を有する物品に対して一定の税負担を負わせることを目的とするものであるから、その課税標準も当該物品の有する客観的価値によるべきであつて、もしこれを原告主張のように個々の取引事情によつて左右されうる現実の販売価格によるとしたのでは、とうてい課税の公平を期しえないからである。そして、この適正な市場価格は、製造者が製造場から移出する物品を通常の卸取引形態で販売している場合には、特殊の事情あるものを除き、その通常の卸売価格(これに物品税相当額が含まれているときは、それを控除した価格)に反映されていると認めるのが合理的であるところ、成立に争いのない乙第三号証と被告の主張を合わせると、本件においては、原告が各移出時の前月(ただし、昭和三三年一一月分については当月)に同種のゴルフクラブをその新宿営業所から卸売りに出した最多取引価格をもつて移出時の単価とし、これから物品税相当額を控除した価格を課税標準としていることが明らかであるから他に特段の事情のないかぎり、右の価格が適正な市場価格であると認定してさしつかえない。
五、以上の次第で、本件課税処分につき原告主張の違法事由はなく、他に右処分とこれを維持した本件再調査請求棄却決定および審査請求棄却決定につき違法とすべき点はない。よつて、右各処分の取消しを求める本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 緒方節郎 中川幹郎 佐藤繁)
(別表一、二省略)